「山崎のやつ、どこにおるん? まさか先に帰ったとか?」


わけがわからない状態のわたしに、瑠衣は怖い顔で詰め寄ってくる。


通りすがりの人たちから好機の目で見られているのに気づき、
とりあえずこの場をおさめなければ、とハッとした。


「ちょっと待って、落ち着いてよ」

「先生も悔しくないん? 
あいつほんま最悪やん。なんであんな男と――」

「落ち着いてってば! 片瀬くん!」


わたしの怒鳴り声で、瑠衣はやっと我に返って言葉を止めた。


ふぅー、と息を吐いて、気を静めるわたし。


「いきなり何なん?」

「……」


瑠衣は何も答えようとしない。

叱られた子供のような顔で立ち尽くしている。


「まあ、とりあえずどっか入ろう」


背中をポンと叩くと、瑠衣は小さな声で「はい」とつぶやいた。