あんなの、気しちゃいけない。

噂好きの生徒たちが勝手なことを言っているだけなんだから。

気にしちゃ負けだ。


自分にそう言い聞かせ、どうにかその日の授業を終えた。



そして帰りの仕度を整え、階段を下りていたとき。

背後に、騒がしい足音を聞いた。


体の横を風が通るように女子生徒が走りぬけ、その瞬間、肩がぶつかった。

衝撃で足を踏み外しそうになって、わたしはとっさに手を伸ばす。

つかんだ場所に手すりがあり、ぎりぎり転倒を免れた。


「あ、すみません!」


ぶつかった生徒は早口でそう言って、よっぽど急いでいるのかさっさと走り去っていく。


心臓がばくばくと音を立てていた。


……もしかして、わざと?


ふと胸に芽生えた疑問を、わたしはあわてて消した。


謝ってくれたのに、そんなことを疑ってしまうなんて、どうかしてる。


「先生、大丈夫ですか!?」


たまたま近くで見ていたらしい栗島くんが、叫びながら駆けつけてくれた。


「うん、ありがとう」

「何なんすか、さっきの。ちゃんと謝りもしないで最悪やな」


わたし以上に怒りながら、散らばった荷物を拾ってくれる栗島くん。


「あれ?」


彼の動きが止まった。

手に握られた紙切れを見て、ギクリとする。


「何すか……これ?」


それは、授業中に没収した手紙だった。