「わかった」


ぽつりと言い残し、瑠衣は部屋を出て行った。


玄関のドアが閉まる音を、まるで現実の外の出来事みたいにわたしはぼんやり聞いていた。



体が磔にされたように、しばらくソファから動けなかった。


ひとり残された部屋。

自分のため息しか聞こえない部屋。


のろのろと立ち上がって台所に行き、クリスマスマーケットで手に入れた、あのマグカップを食器棚から出した。




――『未成年にお酒飲ましたなんてバレたら、わたしまで不良講師のレッテル貼られるやん』



――『ええやんか、不良で』




ついこないだのことなのに。

思い出すとなつかしくて、温かい笑いがこみ上げる。


おかしいけれど、涙も、一緒にこみ上げる。



このカップは宝物にしよう……。


瑠衣と過ごしたあの短い時間を、“永遠”にしてくれる宝物。



本当は最初からわかってた。


わたしの想いに、未来はない。

未来は、あっちゃいけないんだ――。




「先生」


出て行ったはずの瑠衣に呼ばれ、心臓が跳ねた。