「わたしみたいな年上じゃなくて、片瀬くんの同世代でもっと似合う女の子がいるやん」

「……何それ?」


困惑が瑠衣の瞳を冷たくする。


「きっとその方がいいよ。周りに隠す必要もないし。
わたしみたいな女と付き合ってたら、片瀬くんの人生が変わってしまうから」

「ふざけんなよっ」


瑠衣は叫びながらわたしを抱きしめた。

怒りをふくんだ声とは正反対の、優しい腕で。


「それじゃ先生も俺の親と一緒やんか。俺の気持ちなんかホンマは考えてへん。
なんでそんなこと、勝手に決めるねん」

「……片瀬くん」

「まじで、ふざけんなって」


消えそうな声。

抱きしめるというよりは、しがみついているような腕。


わたしは――自分が傷つくのが怖くて、瑠衣を傷つけてしまったんだ。


「ごめん……」


あやまるしかできなかった。


「でもわたし、怖いんよ……。
7つも年上で、あんな過去があるわたしが、片瀬くんのそばにいたらアカンって」


「何言うてんねん。歳なんか関係ないし、過去のことは俺が支えるって約束したやん」


わたしは強くかぶりを振る。


「違うの」

「何が?」


瑠衣は眉を寄せ、わたしをまっすぐに見つめた。


ああ、そうか。

真正面から向かってくるこの子には、これ以上隠し通すことなんてできないんだ。


「わたし……片瀬くんにまだ話してへんことがあるの」


自分の唾を飲む音が、部屋中に響いた気がした。