次の日。


「もっとゆっくりしていけばいいのに」


お昼にもならないうちに帰るわたしに、玄関で見送るお母さんが残念そうに言った。


「うん。でも、片付けたい仕事がいっぱいあるし」


荷物を持ってドアノブに手をかけたとき、

「葵、ちょっと待って」

呼び止められ、ふり返った。


「何?」

「その……昨日言ってたことなんやけど」


ああ、とわたしは小さく笑う。


「大丈夫。お母さんは心配せんといて」


暗い顔のお母さんに精一杯の笑顔を見せて、わたしは実家をあとにした。







マンションに着いたとき、オートロックの前で思わず立ち止まってしまった。


「片瀬くん?」


外壁に背中をもたれかけていた瑠衣は、わたしに名前を呼ばれて顔をあげる。


そして表情をぱっと明るくした。


「せんせっ。明けましておめでとうございます」

「……おめでとう。てゆうか、どうしたん?」