「えっ、こないだ電話で話してた彼氏?」

「うん。実は、赤ちゃんができてね。
突然のことやから式は挙げられないけど、入籍することにしたの」


お母さんが言っていた“大事な話がある”というのは、このことだったのか。


「あ、初めまして。妹の葵です。よろしくお願いします」

「桂木健太です。よろしくお願いします」


ぺこぺこと頭を下げ合うわたしたちに、


「これから家族になるんやから、堅苦しい挨拶はその辺にしなさい」


とお父さんが笑った。






おせちは飽きたというミキ姉のリクエストで、その夜はすき焼きだった。


「じゃあ、桂木さんはもともとミキ姉のお客さんだったんですか」

「はい。僕がずっとミキさんを指名してて」

「初めて指名してくれた男のお客さんやから、わたしも嬉しくてねー」


お酒が入ったミキ姉は、幸せを隠す様子もなく桂木さんにぴったり寄り添っている。


「今年はミキの結婚が決まって、葵も久しぶりに帰ってきてくれて、ほんまに素晴らしい正月やな」


一番酔っ払っているお父さんが、ろれつの回らなくなってきた口調で言った。


「あとは葵が嫁に行けば、もう俺らは安心して老後を迎えられるなあ」