「……今日、どうやった?」

「どうって?」

「お父さんたちと話し合ったんやろ? 気持ちの整理ついた?」


瑠衣の顔が少しこわばった。

だけど瞳の色まで暗くはならず、決心するように唇を噛む。


「来月、母さんと一緒に家を出て行くことにした」

「えっ」

「心配せんといて。遠くに引っ越すわけちゃうし、予備校も今のまま通うから」


彼の手がわたしの頭をポンと優しく叩いた。


瑠衣……違う。

わたしが心配したのはそんなことじゃないよ。


「ほんとに大丈夫?」

「ん? 全然へーきやで」


無意味な質問をしてしまったな。
我ながら思った。

笑顔で見せてくれたピースサインが、強がりだってことくらいすぐにわかる。


辛いよね、瑠衣。


こんなに傷ついている瑠衣に、これ以上よけいな負担はかけたくない。


涼子ちゃんのことは……黙っておこう。



「先生、何か悩んでる?」


心配そうに言われ、わたしはすぐに笑顔を作った。


「ううん、何もないよ。あっ、そういえば昨日うちに携帯忘れてたやろ?」