「それが実は不発に終わっちゃったんです」


涼子ちゃんは苦笑いして、耳の後ろを掻く。

誰かによく似た仕草だ、と思った。


「何回か電話してみたんですけど、出なくて。
家にもかけてみたら、昨日の夜から帰ってへんって」


彼女の気丈な表情が、少しだけ崩れた。


「イブの夜に外泊して、今日も電話に出てくれへんってことは……先生、どう思います?
やっぱり女の子と一緒にいるってことかなあ」


女の子――ではないけれど、昨夜は女の家に泊まった。

それは、わたしだけが知っている真実。

でも、もちろんそんなこと言えない。


「さあ……。わたしにはわからへんけど、きっと忙しかったんちゃうかな」


心のこもっていない適当な言葉で濁す。

わたしは最低だ。


「そうかなあ。そうやったらいいな」


涼子ちゃんの素直な反応が痛かった。

いたたまれず、早く帰ろうとしたところを、引き止められた。


「今から栗島のライブ行くんですけど、先生も一緒に行きません?」