「先生?」

「こんなん、嫌や」

「……」


頬から瑠衣の手がそっと離れる。

長い、長い沈黙。


「ごめん」


先にあやまったのは瑠衣だった。


「俺、先生の過去のこと知ってるのに、強引にいってごめん。嫌なのも当たり前やんな」

「違…っ、そうじゃないねん」


叫ぶわたしに、瑠衣は目を丸くした。


「あの、そうじゃなくて」

「何?」


瑠衣の優しい声は、まるで誘導尋問みたい。

恥ずかしいのに、わたしの言葉はブレーキを失ってしまう。


「キス、したら……本気で好きになってしまうから」


全身が火の中に入れられたように、熱い。


ああ、もう。
わたしは何を言ってるんだ。

羞恥心が錘のように乗っかってきて、顔を上げることすらできなかった。


「好きになったらいいやん」


すねたような声で瑠衣が言った。


「俺のこと、好きになってよ」

「何言ってるん。ダメに決まってるやん」

「なんで?」

「なんでって……」