瑠衣も照れているのか、しきりに目を泳がせながら鼻をすすっている。

そしてわたしの前まで来るとやっと目を合わせ、

「お待たせ、先生」

と頬をほころばせた。


「……あの、こんな時間に走らせてごめんね」


わたしは何度も髪を耳にかけながら、裏返りそうな声で言った。


「なんで? 俺が来たいから来たのに」

「でも、やっぱり悪いっていうか」

「悪くないよ」

「でも」


瑠衣は苦笑いして、わたしの隣に腰を下ろす。


「先生、“でも”が好きやね」

「……」

「ええよ。“でも”何?」


鼓膜が――溶けてしまいそうなほど熱く感じるのは、気のせいかな。

言葉に詰まって、わたしは隣の瑠衣を見る。


至近距離でぶつかった視線は、蜜のように甘くて――。


「――“でも”…来てくれて嬉しい」


ほてった顔をうつむけると、瑠衣はわたしの頭の上にポンと手を置いた。


「素直でよろしい」


えらそうな彼に、言い返したいのに鼓動が邪魔してうまく話せない。



ねえ、瑠衣。


あなたに近づけば近づくほど、わたしはなんだか自分がバカな生き物になっていく気がするよ。



あきれるくらい乱されて。


あきれるくらい、甘ったるくて。