たぶんわたしは瑠衣に近づきすぎている。

彼の胸で泣いたあの夜から、自分で思う以上に心を預けすぎている。


それじゃダメなのに。

こんな感情は、自分を弱くしてしまうのに。

だからわたしは今まで、人を求めずに生きてきたのに。


瑠衣に甘えすぎたわたしは、女子生徒から反感をもたれていたことすら気づいていなかった。

おまけに涼子ちゃんにまで心配かけて。

こんなんじゃ、講師失格だよ。



自宅のソファでもんもんと考えた末、わたしは携帯を手に取った。


瑠衣に電話をしよう。

そして、予備校ではあくまでも先生と生徒だということを、はっきり伝えるんだ……。


まだアドレス帳に登録すらしていない、だけど完璧に覚えている11ケタを押していく。

プッ…プッ…という電子音のあと、メロディコールが流れた。


10秒、20秒……。

緊張で心が掻きむしられる。


1コーラスが流れたところで、わたしはあきらめて電話を切った。


「もう、寝たか」


独り言をつぶやいて、携帯をソファの上に落とした。


あれ? 

なんかわたし、ガッカリしてない? 

ただ用件があって電話しただけなのに――。