たしかに以前に比べたら、瑠衣が職員室に来る回数は増えたかもしれない。
でも他の生徒だってたまに質問に来るし、彼だけが特別というわけでもないのに。
彼の友人と話しているのを見て妙な勘ぐりをされたのも、気分が悪かった。
だけど苛立つ反面、後ろめたさを否定できないわたしもいた。
――『俺、先生のことが好きです』
あれ以来、瑠衣の口からはっきりとした言葉は出ていないけれど、ふたりの間を流れる空気はたしかに変わった。
彼の胸でわたしは子供のように泣いて、少しだけど、心が解けたんだ。
「……あのー、先生。チャイム鳴りましたけど」
その声で我に返ると、しんとした教室に並ぶ生徒たちの視線が、こちらに集中していた。
「あ――ごめんっ」
時計を確認し、あわてて言う。
「じゃあ今日はここまでです」
授業から開放された生徒たちは、伸びをしたり机の上を整理し始める。
音が戻った教室でわたしはため息を吐いた。
授業中にぼんやりするなんて、最低だ。
今わたしが立っている場所は、そんな人間がいていい場所じゃないのに……。
「あ~あ。せっかく高い授業料払ってんのに、講師が不真面目やったら意味ないわ」
ざわめく教室に、女の子の声が響いた。