<いや、かわいそうなのはギターの方っすよ。
あいつのは女泣かせじゃなくて、ギター泣かせやもん>


わたしの文字の下に、彼も返事を書き込んでくる。

もちろん周囲には勉強していると見せかけるため、適当に文法の話なんかしながら。


<でもあそこまで打ち込めるのって、なんか羨ましいよね>

<たしかに>

<片瀬くんは何か夢中になってるものとかないの?>

<ん~……。趣味は色々あるんやけど、熱中するほどではないかなあ>

<じゃあ将来の夢とかは?>


そのとき、隣の席の講師が授業から戻ってきたので、さすがにわたしたちはペンを止めた。 


秘密の会話が詰まったノートを、瑠衣は何食わぬ顔で鞄にしまう。


「先生、いつもありがとうございます。おかげでかなり理解できました」

「どういたしまして」


実は勉強の話なんかちっともしていないんだけど、
と心の中で自分に突っ込むと、ちょっと冷や汗が出た。


瑠衣は頭を下げて、職員室をあとにする。

廊下に出たところですぐに、友人らしき生徒に声をかけられているのが見えた。

楽しそうに話しながら歩く彼の姿が窓からフレームアウトするのを、わたしはぼんやり眺めていた。


「さっきの生徒、最近よく来ますよね」

「えっ?」


ふいに隣の講師から言われ、ぎくりとした。