瑠衣が職員室に来るとき、わたしの心臓は、以前とは確かに違う音を響かせる。


一直線に近づいてくる瑠衣が怖くて今まではずっと拒絶していた。

だけど最近は、少しずつだけど変わってきているんだ。


「えーっと、これは応用問題だから……」

「はい」


いつものように瑠衣はわたしの席の横に立ち、広げた大学ノートを見下ろす。

わたしは彼が用意してきた質問に答えながら、ノートの端のメッセージをちらりと見る。


<栗島のギターはまじでひどいっすよ!
初めて聞いたとき俺、ギターに同情したもん!>


思わず笑いかけた。

最近の瑠衣ときたら、わざわざ授業の質問を装って来るくせに、こんなくだらない世間話ばかりなのだから。


わたしは問題の解き方を教えるふりをして、ノートにペンを滑らせる。


<そんなの言ったら栗島くんがかわいそうだよ>