冬眞は、手紙のことに関してはそれ以上訊いてくることをしなかった。

買ってきた惣菜を袋から出して、温めるのかキッチンに立つ。

わたしはベッドに寝転んで、冬眞の立てる物音を聞きながら目を瞑った。

近くで日常の音が聞こえるというのは、うるさいけれど心が落ち着く。


息を吸って、吐いて、薄く瞼を開ければ、カウンターの向こうに立つ冬眞が見えた。



「……ねえ、冬眞」


小さく漏らした声に、けれど冬眞はちゃんと気付く。

こっちを見て、「なに、瑚春」って名前を呼びながら笑う。

わたしに、笑う。



『何も知らねえ奴は、きっとあんな風には笑えねえよ』


今日、店長が言っていたことを思い出す。


誰かのために笑えるのは、同じ傷を持っているから。

痛みを知っているからこそ、こんなに綺麗に笑えるんだと。


そんな、馬鹿げたこと。



「……あんたは、この世界が、どれだけ淀んでるか、知ってる?」


目を逸らして問い掛けた。

自分で自分を笑ってしまうような幼稚な問い掛けだった。

それに意味なんてないけれど、きっとどんなことにだって、初めから意味なんてない。


流れていた水がキュッと音を立てて止まって、温められたコロッケが、カウンターの上に乗った。



「知らない」