クローゼットを開けて、隙間の多いそこに適当にコートを押し込んだ。

5年前からあまり増えていない服は、今はもう、着ていないものも多かった。


「いいの。大家さんには迷惑かけてるけど、いつも捨ててもらってるから」

「なんで捨てるの?」

「読みたくないから以外に、理由なんてあるわけないでしょ」

「誰からの手紙なわけ?」


クローゼットの戸を閉める。

温まっていない指先は、まだ、微かにかじかんで赤い。


向けた背中を、冬眞がじっと見ているのがわかった。

だけど振り返ることは出来ない。

今目を合わせたら、きっと、心を抑えて話すことなんて、出来なくなりそうで。



「……親からだよ」

「親? 実の?」

「うん、そう。わたしの、両親」



あれは、いつ頃からだろうか。

たぶん、3年くらい前からだと思う。

知らせていなかったわたしの居場所を、どうやって調べたのか、時々、手紙を送ってくるようになった。

家に来ないだけましだけど、でもわたしは、その手紙を見ることにすら嫌気が差して。

大家さんにお願いして、わたしの家への来る郵便物は、必ず彼女を通して渡してもらうことにした。


今でも、生活に関わる通知は受け取って、それ以外のどうでもいい広告や、わたし宛の手紙は、すべて、捨てることにしている。