「瑚春ちゃんの代わりに、冬眞くんがご飯作ったりしてるんでしょう?」
「ええ、まあ」
「いいわねえ瑚春ちゃん! こんなに素敵な恋人が居て!」
あははと高らかに笑う大家さんに、わたしは引きつった笑みを浮かべることしか出来ない。
当たり前だけど、やっぱり、彼女はわたしたちのことを恋人同士だと思っているらしい。
なんと迷惑極まりない勘違いか。
「そうなんです、助かってます。わたし家事って苦手なんで」
だからって、否定するのも面倒なわけで。
だって否定したらしたで、じゃあ何なのって、問い詰められるに決まっているし。
「そうねえ。あ、でも冬眞くんって、失礼だけど、お仕事何してらっしゃるの? 家事と両立するの大変でしょう」
「いえ、それが、瑚春が働かせてくれなくて」
「あらまあ……瑚春ちゃん、頑張るわね」
2度目の苦笑い。
そしてそれを浮かべたまま、冬眞にだけ全身全霊で睨みをきかせた。
さっきの会話のことを言ってるんだろうけど、なんだか変な誤解を招きそうな言い方しやがってこいつ。
その上、わたしが怒ってるのをきっと承知で、へらへら笑ってるもんだから。
「もう行くよ冬眞。大家さんだって忙しいんだから」
思いきり腕を引く。
そしたらさすがに大家さんも冬眞の手を離してくれたから、わたしは冬眞の腕をがっちり掴んだまま、通路の一番奥まで向かった。
「きちんと鍵、閉めるのよ」と大家さんの間延びした声が見送ってくれる。
だけど、ふと。