急に体が斜めに倒れた。
向いていた流れとは垂直の方向へ。自然には倒れない方向へ。
何とか足を踏み出せたおかげで無様に転びはしなかったものの、乗っていた流れからは見事に外れ、肩越しに見た一歩向こうには、わたしが歩いていたはずの大通りの人ごみが見えた。
わたしひとりが外れても、何ら変わらず動いていく、その、流れ。
「ねえ」
わたしの腕は、誰かのそれに掴まれていた。
ぎゅうっと、強く。5年も使っている古いコートの袖に、深く皺が刻まれている。
──ねえ、と、わたしを呼んでいるのか、もう一度声がして顔を上げれば。
人を引っ張れるくらいに強く握られた腕の先。ビルとビルの狭間、夜の路地の暗がりに。
「ねえ、ちょっと」
にこりと人懐こく笑いながら、その男は、立っていた。