「わかるだろう、瑚春。お前だって同じだろ」


ぽすん、と頭に大きな手が乗る。

自然と俯く頭の上で、ぽんぽん跳ねるその掌は、いつだってわたしの閉じ込めた心を引きずり出そうとしてくる。


「治らない傷は、そのうち何より大切なものになる。瑚春、お前にもたくさんあるはずだろ」



わたしの過去なんて、知らないくせに。

気付いているような振りして、でもわたしの心なんて、きっとひとつもわかっていないくせに。

勝手なことを言って、勝手に決めつけて。


でも。


ああ、そうか、そうなんだ、ねえ、ハルカ。



『好きなだけ泣いていいよ。

いつかこのことをふたりで思い出して、大声出して笑おうよ』



きみも、同じようなことを言っていたね。


悲しいことは、いつか笑い話に変わるんでしょう。

ふたりで思い出して、たくさん話して、お腹抱えて笑い合うんでしょう。


そんなこと、絶対無理だって、わたしは何度も言ったよね。


だけど、ねえ、もしも、それが本当だとしたら。

もしもいつか、それが本当になってしまうとしたら。



「……でも、わたしはまだ、あんな風には、笑えません」



わたしはその日が来ることが、何よりも、怖いんだよ。