お客さんがやって来たから、話を止めてレジを動かした。
営業スマイルというよりは地ののんきな顔を浮かべる店長の横で、わたしは品物を包みながら、店長の今の言葉を頭の中に並べていた。
ありがとうございます、そう揃って言ったところで、店長が一度息を吐く。
「でさ、俺は、単純で馬鹿みたいなことだけど、優しくなろうって思ったよ。そんで傷付いた人がいれば、おんなじ傷を自分も持とうって」
あのなあ瑚春。
間延びした声で、店長がわたしの名前を呼ぶ。
「痛みを知らねえ奴は、他人の痛みも分かってやれねえんだよ。だってもともとそんなもの、分かち合えるもんじゃねえもんな。
だから人の傷を知るときは、自分の中の傷を引っ張り出すんだ。そうやって同じ思いを抱えて、心を知って、手を取ってやるんじゃねえのかな」
笑いかけるその顔は、いつも見ている彼の姿。
語ろうとか、説教しようとか、そんなまともなことは一切考えていない、ただのいつものおしゃべりの一部。
だからこそ、まっすぐ届いてしまう、やっかいな、言葉。
「……」
わたしは何も応えなかった。
店長はわたしの返事を待っていたわけではないんだろうけど、でも。
なんと言うか、ただ、どうやって応えればいいのかが、どうしてもわからなかった。
「俺はあいつが、何も知らないで笑ってるようには見えねえんだよな」
店長の視線がゆるりと動く。
それを追いかけた先には、当たり前のように、冬眞がいた。
「何を見てきたのかは知るわけがねえよ。大なり小なりあるだろうし、人の心はそれぞれだしな。言葉にしたところで伝わるわけもねえ。
だけどさ、月並みだけど、分かり合おうとする気持ちは大事だと思うよ。そうして皆、繋がっていくんだろ?」
もう一度、店長の視線がわたしに戻る。
自分の思いがわからないわたしの心に、きっと気付いているんだろう、なんだか意味深な微笑みを向けて。