「そうだなあ、確かに綺麗だ」
店長が間延びした声で呟く。
「まるでこの世には綺麗なもんしかねえって思ってるような奴の、顔だなあ」
目を細めてくつくつと笑う、その横顔を見上げる。
「そう、なんですよね」
そう、わたしも、同じことを思った。
世界の、綺麗なものしか見えていないような顔で。
世界が灰色に汚れていく景色も、この世には絶対に救われないものがあることも、世界が崩れるほどの絶望が、簡単に起こりうることも。
知らないような顔で、笑うから。
「あいつは、何も、知らないんです。だからきっと、あんな顔ができるんです」
「……知らないってのは、つまり?」
「……言った通り、何も。綺麗ではないものが、この世にあるってこと。救われない思いや痛みが、あるってこと」
わたしはそれを知っている。
知っているから、もう二度と、あいつのように笑うことなんて出来ない。
綺麗じゃない世界を見た、何も救ってはくれない世界を見た。
大声で泣き叫んでも、届かない、声を知った。
だからもうわたしは、誰かの心に届くような笑みをつくることは出来ないし。
自分の心を揺らすような、泣き声をあげることすら、きっと、出来ない。
もう、二度と。