確かに、良い奴かどうかはともかくとして、何か悪いことをするような奴ではなさそうだ。

無理やり人の家に居候したり、おまけに恩人であるわたしを自分の我がままのために脅したりはする奴だけど。


でも、たぶん、人を傷つけるような悪いことを、あいつはしない。

誰かの体や心に痛みを残してしまうようなことを。

思い出すたびに苦しんでしまうような、そんな気持ちを与えることを、あいつはしないだろう。


そんな奴じゃない、よく知らないけど、それだけはわかる。

だって。



「……すごく、綺麗に、笑いますもんね」


つい口を衝いて出た言葉に、店長が目を向けてきた。

そこで初めて口に出していたことに気付いて、気付いたところでどうにもならなくて。

わたしは店長の視線に自分のそれを一瞬だけ絡ませて、それからゆっくりと、カウンターの向こうに戻した。


知らない女の人たちと話しているそのときにも、浮かぶのは、やっぱり、あの笑う顔。



「……冬眞、見てて思うんです。わたしが怒ってても、くだらないこと言ってても、八つ当たりしていじけてても、何してても、あいつ、いっつもすごく綺麗な顔で笑うんです」


哀しみを全部、その中に包み込んでしまうみたいに。

その代わりに笑顔を、誰かの手に、そっと渡してあげるみたいに。


わたしには、怒ったり泣いたりしろよって言うくせに、自分は怒ったり泣いたりしないんだ。

でも、笑う顔も、決して無理に繕ったものじゃなくて。


そう、たとえば、いつかにハルカがわたしに向けてくれたものみたいな。


誰かの心を救う、笑顔。