「瑚春?」


むに、とほっぺたをつままれる。

つままれたままで振り向けば、店長が隣でわたしを覗き込んでいた。

ほっぺたが伸びたわたしの顔を見てか、ちくりと笑う。


「変な顔ー」

「誰のせいだと思ってるんですか。離してください」

「仕事中にぼーっとしてる奴が悪い。反省しなさい」

「ロクに仕事しないような人に言われたくありません。店長が反省してください」


上目で睨むと「ごめんごめん」とちっとも反省してなさそうな顔をして、店長はわたしのほっぺたから手を離した。

少し、左のほっぺたがじんじんする。


「ま、あいつが誰だろうとどうでもいいやなあ」

「どうでもいいことないですよ。わたし、家に住みつかれてるんですよ」

「防犯になっていいじゃねえか。女の子の一人暮らしは危ねえって俺ずっと言ってたろ?」

「一緒に住んでる奴が誰よりも怪しくて危ないんですって」


そう言いながらも追い出そうともしていないわたしが言えた義理じゃないかもしれないけれど。


だって追い出すことも億劫で、なら成り行きに身を任せるしかなくて。

別に誰かがそこに居たとしても、居なかったとしても、何も変わらないなら、勝手にすればいいって。

そんなことを思ってしまうから。



「まあ、だけど冬眞なら大丈夫だろ。あいつは良い奴だ」

「何を根拠に?」

「俺、人を見る目はあるんだよ。あいつは良い奴だ」


同じことを2回言って、店長は満足気に頷く。

わたしは軽く呆れを滲ませた息を吐いて、冬眞の横顔を見つめた。