「……さあ。わたしも、わかりません」
だってそんなもの、わたしの方が訊きたいくらいだ。
こいつは一体誰なんだって、なんのために、ここに居るんだって。
わたしは結局あいつのことを、なんにも知らないままなんだから。
わたしが冬眞と出会ったのは、ほんとうにくだらない偶然であって、それ以外の理由なんてひとつもなくて。
きっと冬眞がここに居るのは住む場所が欲しいからで、そのうち飽きれば居なくなるに決まってて。
そしたらあいつはわたしのことを忘れて、わたしもあいつのことを忘れて。
またこれまでのように、関わることすらなく、生きていくような関係なんだ。
わたしは冬眞のことを知らない、冬眞もわたしのことを知らない。
知る必要すらない。
だってもう今さら、冬眞が誰かなんて、わたしにはどうでもいいんだ。
わたしたちは本当なら、関わることのない人間だった。
偶然たまたま知り合ったけれど、きっとそれも一瞬で終わる、お互いの人生の幕間のような時間。
『俺は、瑚春に、涙と笑顔を返すために、ここに居る』
馬鹿馬鹿しい。
そんなもの、冗談とも言えないような冗談だ。
返すも何も、わたしの涙も笑顔も、あんたなんかに、奪われた覚えはない。
だって、それは、とうの昔に。
わたしがハルカに、返したものだから。