ああ、仕事場に男を連れて行くなんて、非常識にもほどがある。
一体店長はこいつを見て、わたしになんと言うだろうか。
あんな非常識極まりない男に怒られるなんて癪だけど、でもこればかりは仕方がない。
いや、むしろ店長がおもいっきり怒鳴ってくれればいいんだ。
そうしたらさすがに冬眞も反省して、大人しく家に帰ることだろう。
そう思って、いつもよりも足早に、店への道を進んでいたのに。
「おう瑚春、誰だそいつ。新しい彼氏か」
店に着いたら、案の定、店長が訝しげな眼で冬眞を見て。というか、どちらかと言えば品定めしてるみたいに上から下まで嘗め回すように見て。
「あの……昨日言ってた……冬眞です」
わたしは恐らく引きつっているであろう顔でぎこちなく笑って。
「トーマ? て、拾った捨て猫のことだろ?」
「まあ、拾った……んですけど……こいつを」
「初めまして。瑚春が働いているお店がどんなところか見てみたくて、お邪魔してしまいました」
冬眞が得意の懐こい顔で笑う。
「え……うそ、瑚春、まじでこいつを拾ったわけ? 猫じゃなくて? え、ヒト?」
「猫なら……よかったんですけどね」
大きな溜め息を吐く横で、店長がもう一度まじまじと冬眞を眺めていた。
不思議なものでも見るようなその視線を、けれど冬眞は別段気にしていないのか、にこにこと笑ったまま受け止めている。