『トーマかあ。あ、そうだ、明日そいつ連れて来いよ』
いやいやいや、だけどこれ店長、猫のことだと思って言ってたから。
アレルギーに負けないとかあほみたいなこと言ってたから。
とにもかくにも仕事場に無関係の男を連れて行くなんて非常識なこと出来るわけがないし。
いくら居るのがあの店長だけだとは言え、いやむしろあの店長だからこそわたしだけは真面目でいなければいけないわけで。
つまり、ここは全力で、こいつの我が儘を押さえつけ躾けなければいけない。
そう、飼い主の責任として。
「冬眞」
「ん?」
「つべこべ言わずここで大人しくしていなさい。おいしいお菓子買って帰ってきてやるから」
いやむしろお菓子もいらないだろ。
なんでわたしの方が譲歩しなきゃいけないのか。
「そもそもあんた、確かユーレイっていう設定じゃなかったっけ」
「その辺りは大丈夫。いろいろと融通きくユーレイだから」
「なんでもありだな」
「なんでもありなんだよ。だから連れてって」
「無理だっつってんだろ」
ちょっと語気を強めて言い切ってみる。
なんでもかんでもお前の思うとおりになると思ったら大間違いだぞ。
これからわたしは遊びに行くんじゃない、仕事に行くんだ、つまり向かうのは遊び場じゃない、仕事場だ。
世の中はそんなに優しくないんだぞ。
社会とは、得てして厳しいものなのだ。
冬眞が軽く口元を歪めて、片眉を上げてみせる。
「でも俺をここに置いて行ったら、アパート中走り回って、俺は瑚春のヒモだって、言いふらしちゃうよ」