ざわざわと忙しなく人が過ぎていく大通り。

いつもの通勤路をいつもと同じ時間に、歩き慣れた方向へ向かって進んでいた。


街の中心部からは少し外れているけれど、この辺りはこの街ではまだ随分栄えているほうだ。

ビルが並ぶし車通りも多い。横を走る車のヘッドライトはいつもまぶしくて、ときどきブレーキ音やクラクションが響く。


駅から続く道でもあるからか、もう少し早ければ学生が多くいるけれど、日がすっかり暮れたこの時間帯は仕事終わりのサラリーマンやOLとよく鉢合わせた。

飲み屋が並ぶ通りだから、これから一杯って人が多そうだ。わたしみたいに、この時間に真っ直ぐ家に帰ろうっていう大人はあんまりいないように見えた。


なんでもない日の仕事終わりの夜。

大勢が行き交う歩道を、なるべく列を乱さないように進んだ。

前を行く人が止まれば、うまく肩を避けてぶつからないように。

速くはないけれど立ち止まらないように。そうやっていつもと同じように、家に帰る。


いつもと変わらない毎日を送る。

ただ、時間が過ぎていくだけの日々。

人の言葉は雑音。通り過ぎる景色は不鮮明。

波の中に飲まれて、漏れることなくその一部になって、前へ前へと進んでいるけれど。


ときどき、ふと、どこにも進めていないんじゃないかって思うときがある。


わたしだけがこの場に取り残されて動けないでいるような。

間違いなく足は動いて歩いているのに、世界だけどんどん先へ進んで、わたしだけがどこにも行けずにここで立ちすくんでいるような。


でも、知っている。わかっているんだ、気のせいじゃない。


あの日からわたしが、一歩も動けていないなんて。

そんなのは十分、わかっているんだ。