ベッドが深く沈む。
わたしに触れない位置、だけどすぐ隣に、冬眞がいるんだとわかる。
まだ慣れない匂い。
自分のじゃない匂い。
ハルカの匂いでもなくて、だけど、他の誰かの匂いでもなくて。
「瑚春」
自分のじゃない香りが傍にあると安心した。
自分のじゃないのに、自分の一部であるその香りは、いつだってわたしの傍にあった。
泣くときも笑うときも一緒だった。
怒ったときは時々ちがったけど、でも時間が経てばやっぱり一緒だった。
「……泣いてんの?」
「泣いてないよ。放っといてって言ってんじゃん」
「泣けよ。たくさん」
「なにそれ、あんたS? 泣かないっての。ばか」
「じゃあ怒れよ。さっきみたいに、もっとたくさん俺に怒鳴っていいよ」
「あんたSなの、Mなの? どっちなの」
「どっちでもねえよ。俺は俺だ」
「話通じなさすぎるよ。泣く気も怒る気も失せちゃうね」
「じゃあ笑えば」
顔を起こせば、やっぱりすぐ隣に冬眞がいて。
きっと変な顔をしているであろうわたしに向かって、とっても綺麗に笑っているもんだから。
まるでこの世の中の綺麗なものしか見えていないみたいに、とっても綺麗に、笑っているもんだから。