声を張り上げれば、上げた顔の先に驚いたような冬眞が見えた。

きょとんとしながらわたしを見つめて、突然怒鳴ったことに、意味すら理解できていないみたいで。


「瑚春……?」

「……っ」


単純なこと、それはたぶん、ただの八つ当たり。

勝手なわたしの勝手な衝動。

置いていかれた思いの結末。



馬鹿だな、わたし。

もう十分おとなだ、なんて思いながら、まるっきり子供のままじゃないか。

冬眞はただ心配してくれているだけで、何も、知らなくて。


そう、何も、知らないんだ、わたしのことなんて。



それでも、一度口に出してしまったことを、取り消せるはずもないから。



「……心配しなくていい。ほんとに、何もない」


また枕に顔を埋めながらの呟きは、くぐもっていてどこにも響かなかった。

おまけに喉はふるえていて、からからに乾いている。


瞼をぎゅっと瞑って、何も見えないようにして。

唇を咬んで、零れてしまいそうな何かを呑み込んだ。



『コハル』



耳の奥で聞こえる声を、消えないように抱きしめた。

それを、もう一度、心の奥に大事にしまった。


大丈夫、涙なんて、もう出ない。