どこに何があるのか、今日一日でもう把握してしまったのか、妙に手際がいいのは驚きだ。

それはもう、まるでベテランの主婦みたいな感じで、一切の無駄な動きをしないで淡々と作業を進めている。


「……ねえ、料理は、よくしてたの?」


目の前の香ばしい匂いを嗅ぎながら、わたしはふと動き回るそいつに問い掛けていた。

冬眞が、瞳だけをこちらに向ける。


「まあね。子供のころから、趣味だったんだ」

「へえ……男の子の癖に、変なの。普通は、サッカーとかバスケとかそんなんじゃないの」


少なくとも、わたしの知ってる男の子はそうだった。


「ん……そうなんだろうけどねえ。まあ、俺の場合は、色々あって」

「ああ、そっか。家貧乏だったんだもんね。サッカーなんてしないで、家の手伝いしなきゃだめだったんだ。泣けるね」

「だからそれ違うって」


苦笑いを浮かべながら、冬眞は温めたスープを持ってきた。

たまねぎとにんじんが入ったコンソメスープだ。

コンソメなんてお洒落なもん置いてなかったはずだし、にんじんも嫌いで買ってなかったら、たぶんこれが大家さんに貰ったものだろう。


「味わって食えよ。おいしいから」


まるで自分のもんみたいに冬眞は言う。

作ったのはこいつでも、そもそもの材料は全部わたしのものなのに。