わたしのどこをどう見たら照れてるだなんて思うんだ。

見てみろこのいかにも機嫌悪そうな顔。

お前の緩い頬と見比べろ、全然違うだろ、調子乗んな。


だけどわたしはその気持ちを全部、口には出さず代わりにこの一言に込める。


「冬眞、超ばか」

「うわ、そんなひどいこと言われたの初めて」

「あんたの初めての女になれて幸せだわ」

「それ昨日も聞いたなあ」


また隣で楽しげに笑う。

悪い事言われてるのになんで笑ってるんだろうって思いながら、わたしはそいつと正反対の顔をする。

俯けば、黒いエンジニアブーツがひょこひょこと動いているのが見えた。

暗いアスファルトの上を進む足。

どこへ向かっているのか、本当に前へ進んでいるのか。

時々わからなくなる、進んでいる、わたしの足。


「瑚春」


呼ばれたから顔を上げた。

冬眞が少し前を歩いていて、笑いながら、手を伸ばしてきた。


「下向いてたら転ぶぞ。ほら」


そう言って、わたしの手を勝手に握って。

無理やり隣に並ばせるから、わたしは小さく溜め息を吐いた。

それから、吐き出したその息が白く濁っているのを見て、ああ冬だなあ、なんてどうでもいいことを考えた。


冬は、あまり、好きじゃなかった。