頭を抱えつつ、とりあえず今は怒鳴る体力もないので、ずるりとベッドから滑り出し冬眞の向かいに座った。
トーストは焼き立てみたいでなんとも香ばしい匂いがするし、カップに入ったコーヒーからも熱々の湯気が立ち上っている。
「……うち、コーヒーなんてあったっけ」
ずずっと音を立てながら啜る。
ミルクと砂糖のたっぷり入った甘いコーヒーは、まさしくわたし好みの味だった。
ちなみに冬眞のはブラックだ。
「ゴミが溜まってたから捨てに行ったら大家さんって人に会って。ここ牛乳しか置いてなかったらさ、頼んだらくれたんだ。ついでにベーコンも、そのおばさんからの貰いもの」
「……あんた誰って、訊かれなかった?」
「訊かれたよ」
「……わたしの家に、いるって言ったの?」
「もちろん。だって俺、瑚春の家にいるしね」
「……」
なるべく大家さんには会わないように気を付けよう。
世話好きで気のいい人だけど、おばさんらしくあれやこれやと訊いてくるのが好きだから、もしも会ってしまったら冬眞のことをさんざん訊いてくるに違いない。
それにいちいち答えるのは面倒だし、そもそも答えられるほどわたしはこいつのことを知らない。