枕元に置いていた携帯の無機質な音で目を覚ました。
いつも遮光カーテンは閉めていないから、寝覚めの眩しさには慣れている。
けれど、この朝から漂う香ばしい匂いは、慣れ親しんだものとは違った。
寝起きはいい方じゃないけれど、今日のは褒められたものだろう。
完全に目を見開いてベッドから体を起こせば、テーブルの上に乗っかった焼かれたトーストとベーコン付きの目玉焼き(2セット)が発見された。
「あ、おはよう、瑚春」
キッチンから形の違うカップをふたつ持って現れたのは、背の高い黒髪の男。
コトリ、とカップを置いてテーブルの前に座る姿は、まるでずっと昔からここで暮らしているかのように思わせる。
が、そんなわけもない。
「……夢のように消えてほしかった」
「ん、なに? 悪い夢でも見た?」
「……うん、今、まさにね」
淡い期待は抱いていた。
昨日の夜の出来事はすべて夢で、朝になったら全部消えてなくなっているんじゃないのかと。
いや、全部なくならなくてもいいんだ。
この男が、いなくなれば、それでいい話、なんだけど。
「ほら、朝ご飯作ったからちゃんと食えよ。コーヒーが冷めちゃう前に」
どこのお母さんだ、ほんとに。