どうかきみは、その場所で、不器用な俺たちを見守っていて。
「春霞」
胸元に当てた手を、ぎゅっと握りしめる。
その手の中には硬い感触。首元から下がるペンダントだ。
赤黒い、歪な形をしたそれは、ガーネットと言う名の石だった。
俺たちの、生まれた月に因んだ石。
「……さあ、行こうかな」
冷蔵庫にあったコーヒーを一缶飲み干して、モッズコートを羽織った。
ジーンズのポケットに財布と携帯を入れて、それから忘れそうになった小箱も2個、コートのポケットに突っ込んだ。
どっちの方が喜ぶかな、と考える。
ひとつは、ダイヤモンドの付いた指輪。
もうひとつは、ビオラを模ったシルバーの中央に、小さなガーネットをはめ込んだペンダントトップが入っている。
今着けているペンダントと一緒に使えるように小振りに作った。もちろんふたつ。ふたりで一緒に着けられるように。
目印なんて、きっともう、必要ないけれど。
それでも繋がりを示す証に、大切なこの石を、プレゼントしよう。
かつて、大切な贈り物を貰って、世界が変わったように。
今度は俺が、希望と幸福を与えられる人になる。
「待っていて。すぐに行くから」
あんたが望むのならば。
この心臓が止まるときまで、いつまでも。
「いつだって、瑚春の側に」
だから、覚悟していて。
もうどこにだって、隠れることなんてできないからね。
だって、まだまだ暗くて、険しくて寒い、瑚春の行く道の先には。
きっとこれから、たくさんの花が、眩しいほどに、
咲き誇るから。
END.