確かに変かもなあとは思う。

俺たちは決して恋人どうしではなくて、これまでに、愛を誓い合ったことだってなくて。

あの子がどう思っているのか、本当はちょっと不安だってあるんだけど。


でも、ずっと一緒に生きていくなら、俺にはあの子しかいないと思うんだ。

そしてあの子にも、きっと、俺しかいないんだろう。



『……まあ、頑張って来てください。応援してますから』

「あは、ありがとう」

『ちなみに、恋人でもない人にプロポーズだなんて、勝算はあるんですか?』

「んー、どうだろ。とりあえずご両親には、結構気に入られてると思うんだけどなあ」

『あ、ご両親には会ったことあるんですか。その人、ほんとに恋人じゃないんですか?』

「なんならその子に訊いてみる? きっと怒られるよ。そんなわけねえだろって」


それって可能性ゼロじゃないですか、と訊く森下さんに、確かにね、と冗談交じりに答えた。

もともと「はい、喜んで」なんて素直な返事をもらえるとも思っていないし。

あの意地っ張りな子を、どう攻略すべきかな。それは、電車の中でのんびり考えよう。


「じゃあ、そろそろ切るね。ちょっと休憩してから、出かける準備する」

『いつ頃からお出かけするんですか?』

「今日中にはもう発つつもり。呼ばれてるからね。急いで行かなくちゃ」


来て、と言われたわけじゃないけれど。来て、なんてあの子は絶対言わないだろうけど。

いつものことだ。

心の中で、ずっと、名前を呼び続けている。

呼ばれ続けている。



『冬眞』



それを辿って“俺たち”は、いつでもあの子のところへ行く。

「勝手に来るな」って怒りながらも、べえべえ泣きわめくあの子のことを、笑いながら、抱き締めるんだ。