同封されたピンボケの写真には、どアップでこっちに鼻を寄せているハムスター(らしき生き物)が写っている。
まったく可愛さが伝わらないけど、とりあえず、飾るための写真立てを探そうと、一旦封筒の中に戻しておいた。
──携帯の音が鳴る。
仕事用の携帯だ。こっちに掛けてくる人は少ない。
「はい」
『こんにちは、森下です。今大丈夫ですか?』
「うん、ちょうどさっき書き終えて、そっちにデータを送ろうと思ってたところ」
『本当ですか、早いですね。ありがとうございます』
携帯の向こう側の声は、担当編集の森下さんだ。
整ったルックスやきびきびとした無駄の無い立ち振る舞い、そして常日頃からスーツを着用していることから、一見してどこぞの大手企業のエリート社員ではと思われることが多い。
加えてどこか近寄りがたく、堅い人にも見られがちだが、話してみると存外砕けた感じで結構接しやすい人だったりする。
「これからしばらく休暇を貰う予定だから、その前に森下さんに渡しておこうと思って、頑張ったよ」
『ええ、存じております。この休暇を考慮してのスケジュールを立てていますから、どうぞゆっくりしてきてください。ただしくれぐれも、連絡はつくようにしておいてくださいね』
「わーかってるよ。なに、まだ根に持ってるの? あのときのこと」
『当然です』
「仕事上で迷惑は掛けてないはずだけどなあ」
『迷惑は掛けられていませんが、心配は余るほど掛けさせられましたから』
生身じゃない耳元の声が明らかに怒っていたので、俺は慌てて謝った。
聞こえる溜め息に、見えやしないのに深々と頭も下げておいた。