「よし」
声を上げて立ち上がる。
振り返ると、遠くの海が見渡せる。
良い場所だ。
この町は、すごく綺麗で、温かくて、思い出の詰まった大切な場所。
「瑚春、春霞に何を言った?」
「冬眞は何言ったの?」
「ん、俺は、ありがとうと、これからもよろしくって」
「うん、わたしも、そんな感じ」
さよなら、ありがとう。
そして、これからもよろしく。
大切なきみへ、大好きなきみへ。
言いたくて言いたくて、でも言えなかったことを、伝えた。
ハルカ、届いてる?
届いたよね。
だって、わたしの声は、ぜんぶきみに届いてる。
ちゃんと、いつだって。
きみはわたしの声を聴いている。
聴こえているんだ。
「少し、摘んでいく?」
冬眞が、わたしの足元のビオラの花びらを人差し指でつんと弾く。
「元々は、春霞が瑚春にあげる花だったんだろ」
「それの子孫ね」
「根っこから掘れば、植え替えれるけど」
見上げる冬眞に、だけどわたしは首を横に振る。
「わたしの家には、あんたがくれたやつがあるからいい」
この花はここで咲かせてあげよう。
わたしに、ここでしか生きていけない場所があるように、この花たちも、在るべき場所というのがある。
「……そっか、そうだな」
彼らはここで、ハルカのお墓に寄り添っていてもらいたい。
わたしにはもう、側に在るから。