わたしが町を出た5年前は、まだ桜山地区の丘陵地に、霊園なんてのはできていなかった。

今思い出すと、できるかもしれないという話はあった気がするけれど、まだ何も進んではいなかったはずだ。


「その桜山地区のお墓ってのは、歩いてどのくらいなわけ?」

「40分くらいじゃない? 隣町の隣町だから、遠くはないけど、あんまり徒歩では行かない距離だね」

「まあ、瑚春にとっては懐かしいし、俺にとっては新鮮な風景だから、ゆっくり景色を眺めながら進もうよ」



懐かしい景色、ほんとうに。

何ひとつ変わっちゃいない。


降りた駅は相変わらずオンボロだったし、アスファルトはひび割れていて、海の見えない場所でも、ほのかに潮の香りがする。

人は少ないけど、みんな温かい、良い町だ。


「家には行かないの?」

「わからない。とりあえず先に、ハルカのお墓に行きたいし」

「もしご両親に会うなら、俺も一緒に会っていい?」

「絶対やだ」

「なんで」

「お婿さん連れてきたと思われるから」


そんな勘違いをされたら困るし、非常にめんどくさい。

ハルカの心臓を受け取った相手なら確かにうちの両親も会いたがるだろうけど。

冬眞がその人物だと理解するまでに、たぶん、たくさんの面倒な質問を乗り越えなければいけない。


「いいじゃん、そう思われたって」

「よくないよバカ。あんたなんかやだ」

「男を見る目がないな、瑚春は」

「そんなこと、腐るほど言われてきたから知ってるっての」

「なるほどな」


冬眞が、高らかに笑う。