冬眞の手が伸びてきて、持っていた枕を奪い取られた。

冬眞はそれをぎゅっと抱きしめて、わたしから少しだけ視線を逸らした場所で、小さく、笑う。



「言ったろ。俺はユーレイだって」


枕にうずめた白い頬。

まだ濡れている黒い髪が、ゆるりとその上を滑っていく。


遠くで、救急車のサイレンの音が聞こえる。

透明な今の季節の空気は、遠くの音が、よく響く。



「……なに、馬鹿なこと言ってんの。そんなわけないじゃん。冗談言ってないでさあ」

「冗談じゃないよ。ほんとのこと」

「だから何言って」


冬眞の瞳が、ゆらりとこちらを向いた。

髪と同じ、夜の色の瞳。


唇が、微かに動く。


「本当だ。俺は一度、死んでるんだ」



それは、言葉とは裏腹に、とても穏やかな口調だった。

その声と表情は、哀しみというよりも、慈しみに満ちていて。


そう、本当に。

まるで大切な大切な愛しい何かに、微笑みかけているみたいに。