家に帰ろうと決めたのは、わたしだった。
ずっと帰れなかったあの町へ。
もう帰ることはないと思っていたあの町へ。
怖くて、見ようとしていなかっただけなんだと気付いた。
ただの、泣き虫で意地っ張りなわたしの強がりだったんだと、知った。
ハルカと過ごしたあの町は、わたしにとってどこよりも特別な場所だったのに。
ずっとずっと、帰りたいと思っていたのに。
わたしはただ、怖くて、逃げていただけだったんだって。
でも、今なら、帰れるような気がした。
ちゃんと向き合って、いろんな“思い出”を思い出して。
ハルカにきちんと「さよなら」と「ありがとう」を、言えるような、気がした。
だけど、こんなに早くとは思っていなかった。
帰ろうと決めたわたしに、明日行こうと言ったのは、冬眞だった。
「そういうのは、時間とか準備とか、必要ないんだ」
そう言って冬眞は今日の朝、勝手に早起きをして、お弁当を作って、とんでもなく早い時間にわたしを叩き起こして、無理やり着替えさせて。
わたしはまだ眠気まなこで、何が何だかよくわからないまま、とりあえず冬眞の手に引かれて歩いて、商店街の近くの駅から朝一番の電車に乗った。
昨日降っていた雪は、夜の間に止んだみたいだ。
積もっていたら電車が動かなかっただろうから、止んだことはよかったけど、雪景色が見られないのは少し残念でもあった。