地元を走るローカル電車は、今も田舎丸出しの真っ赤な車両だ。

2両しかないのに座席は空いていて、椅子の間をコーヒーの空き缶が転がっていく。


このローカル線に乗り換えた町は少なからず賑わっていたけれど、電車が駅に停まるたびに、町並みはどんどん田舎臭くなっていった。

住宅の側を通っていたはずの線路は、そのうち山に挟まれるようになって、一度また家が増えたけれど、それもぽつぽつと順調に減っていく。

景色に田んぼが急に増えたあたりからは、わたしも知っている名前の土地だった。



「瑚春の住んでた町までは、あとどれくらい?」


冬眞が、膝に置いていたバスケットからサンドウィッチを取り出して、わたしにくれた。

具は玉子だけのシンプルなものだ。


「あと30分くらい。海の方まで行くから」

「そっか。駅からは近いの?」

「ちょっと歩く。でも、そんなに遠くないよ」


サンドウィッチを食べようとしたら、電車が大きく揺れて舌を噛みかけた。

古い車両に古い線路、乗り心地は、快適とは言えない。


空き缶がまたころころと後ろの方に向かって転がっていく。

じっと目で追っていたら、一緒に乗っていたお客さんが拾って、次の駅で降りるときにそのまま持って行ってくれた。