「……瑚春は、なんだと思う?」
返ってきた答えは、悪戯気な表情となぜかわたしへの問い掛けで。
今手元にフライパンがあれば殴っていたところだけど、枕しかないのが非常に残念だ。
仕方がないから枕を抱きしめて、見上げるそいつを睨みつける。
「……最有力候補は指名手配犯」
「指名手配犯? なんで?」
「全国の警察その他もろもろに追われてて、身を隠すために一般人であるわたしのところに逃げ込んだって寸法」
「……あんた2時間ドラマとか好き?」
「どっちかっていうと嫌い」
「そうなんだ」
からからと、冬眞が楽しげに笑う。
そのたびに、湿った髪の束がふよふよと揺れて、それがわたしを馬鹿にしているみたいでなんだか余計に腹が立つ。
「悪いけど俺、犯罪なんて、つまみ食いすらしたことないよ」
「……じゃあ、なんなわけ。お忍びで来日中の某国の王子様とか?」
「あ、それいいね。息苦しい場所を抜け出して、自由を求めて旅立つプリンス?」
「そのままここからも旅立って欲しいね」
「淋しい事言うなよ瑚春。泣くぞ」
「やめろ」
ぼふん、と枕で顔を殴れば、なぜだかけらけら声を上げて笑うから、わたしはむすっと黙り込む。
やっぱり、こいつは、犯罪者なんかじゃなさそうだ。
だって、こんな、生きる中で辛い事なんてひとつも知らないみたいな顔で、笑うような奴なんだから。