目の前の自分の指先が見えなくなった。


指先どころかすべてが滲んで不鮮明で、おまけにこめかみと喉が痛くて、噛み締めた唇の隙間から変な声が漏れる。

頬を何かが下りていく。

それがぼたぼた床に落ちる音がする。


「瑚春」


冬眞の指が頬を撫でて、何度も何度も撫でて、だけどそれが撫でているんじゃなく、拭っているんだと気付いて。


それから、自分が涙を流していることを知った。



生温い感覚。

ずっと忘れていた感覚。

懐かしい感覚。


思い出せる場所を、ずっと、ずっと、待っていた。



「……ハルカ……」

「ああ。ここに居る」

「ハル、カ……」

「ずっと待っていたんだろ」



そう、ずっと。


きみが居なくなった日からずっと。


きみの名前を呼んでいた。


きみに届くまで。



きみに見つけてほしくて。



きみを、ずっと、わたしは、待っていた。