窓の外の雪が、少し強くなってきた。
このまま夜に降り続けるなら、明日の朝には、薄く積もっているかもしれない。
「周りには、いい人たちがたくさんいたよ。両親とか、親戚とか、少ない友達とか、生まれたときから診てくれてる主治医さんとか、みんな本当にいい人たちで、俺を支えてくれて、励ましてくれて、俺のためにものすごく頑張ってくれてた。
だけど俺はね、その場では取り繕って笑うんだけど、心の中はいつもぐちゃぐちゃだった。みんなに感謝の気持ちはあるのに、それ以上の思いが強すぎて。
誰に何を言われても、本気で笑ったり、泣いたり、怒ったりっていうのができなかった。体の中から、そういう“生きていく”のに大事な部分が、すっぽりなくなっちゃったみたいに。
だってどれだけ頑張ったって俺はもうすぐ死ぬんだ。言葉とか、優しさみたいなもんで、人は救えない。
祈ったことは一度もなかった。だって、そんなことをして誰が何を救ってくれる? 神様なんてロクなもんは、この世界にはどこにもいない。奇跡だって起きっこない。
この世界はいつだって、絶望以外の何も与えない。
俺は、いつもひとりで真っ暗な道を歩いてた。どこに向かってるのかわからないけど、どこに向かってたってよかった。結局辿り着く先は、もっともっと暗くて冷たい場所だってことをわかっていたから。
見るもの全部がくすんだ色をしていた。何も綺麗には見えなかった。
俺には、この世界で何ひとつ、大切なものなんて、見つけられなかった」
言葉の終わりで、冬眞が小さく息を漏らした。
痛いくらいに静かな空間に、その微かな呼吸はよく響く。
呼吸の音は、心音と同じ、生きている音。
今、この瞬間を、確かに生きている音だ。
「だけどね」
ほんの少しの沈黙のあとで、冬眞が言った。
一度、ゆっくりと瞬きをしたその瞳には、きっと、綺麗なものしか、映ってはいなかった。
「それまで生きられないと言われてた、20歳の誕生日。どうにか持ちこたえたご褒美だったのかな。俺は、人生でただひとつの、大切なプレゼントを貰ったんだ」