「違う」


冬眞は首を横に振る。


「前に言ったろ? ここには俺の心臓はないって」

「でもちゃんと動いてるよ。鳴ってるよ、心臓の音」

「うん。でも、これは、俺の心臓じゃない」



冬眞の手が、わたしから離れる。

わたしもゆっくりと手を下ろして、ふたつの体は、確かに離れる。


もう体温は伝わらない、体の奥の鼓動なんてなおさら。


なのに、今も、ずっと。


その音が、耳元で、聴こえている。




「……俺の心臓は、生まれつき、欠陥品だった」


冬眞が静かに口を開いた。

雪の降る冷たい夜によく似合う、穏やかな声だった。


「少し形がおかしくて、時々まともに機能しないんだ。そういう病気。

運動はできないし、食べ物にも結構気を使わなくちゃいけない。だけどどれだけ気を付けてても、突然死ぬこともある。

物心ついたときからそうだった。薬でも、手術でもきちんとは治せなくて、20歳まで生きるのは無理だって、そう言われてた」


冬眞の口調は、そんなことを話しているのに、少しも苦しさなんて滲まなくて、まるで他人の話みたいに聞こえた。

だけど、それは確かに、わたしが知ることのなかった、冬眞の歩いてきた道だった。


「馬鹿みたいに最悪な人生だった。他の子たちみたいに外で遊ぶこともできなくて、なのにすぐに倒れて、気付けばしょっちゅう病院のベッドで寝てた。

見慣れた白い天井を見るたびに思うんだ。俺はなんでここに居るんだろうって。なんで生きてるんだろうって。

こんな風に、いつ死ぬかもわからなくて、やりたいこともできなくて、そんなの、“生きてる”なんて言わないのに」