アパートの門を抜け、吹き抜けの植木を通り過ぎる。
階段をのぼり廊下の奥。
LEDの電球の真ん前の部屋。
ずっと繋いでいた手が離れて、冬眞がドアを開ける。
中は暗いけれど、遮光カーテンのない窓の向こうから入る遠くの街の灯りが、微かに部屋の様子を浮かび上がらせている。
先に入った冬眞が、ビオラの鉢植えをテーブルに置いた。
わたしは電気さえ点けないまま、ぼんやりと薄闇に浮かぶその姿を見ていた。
目を、離せなかった。
魅入る、という言葉は少し違うかもしれない。
綺麗だったからとか、そういう理由で目を離せなかったわけじゃない。
ただ、雪の降る景色の中に在る冬眞の姿が、どうしてかわからないけど、似ても似つかない、きみの姿と、ふいに、重なって。
月明かりで輪郭が白く光る髪は、真っ黒い癖毛。
───きみの髪は、栗色のストレート。
細い体は、わたしよりも頭ひとつ分以上高くて。
───きみの目線は、もう少し近かった。
どこも似てやしないのに。
全然きみとは違うのに。
その後ろ姿が、会いたくて会いたくてたまらないきみと、同じような、気がして。