冬眞は笑っていた。
本当に、優しく。
そこにはきっと、慈しみの感情以外は何もないんだろう。
ただただ何かを愛おしむように、冬眞はわたしを見て、笑っていた。
「俺はね、瑚春。ずっと、この世界を恨んでいたんだ」
もう一度前を向き歩き出した冬眞が、ゆっくりと口を開く。
もうすぐ家に着くというのに、雪で冷えたわたしの手を掴み直す。
「どれだけ綺麗なものも汚く見えて、何ひとつ鮮やかに感じられなくて、神様なんていなくて、幸せはどこにも見当たらない。
俺はずっとそう思ってた。
なんで俺が、って何度も叫んで、でもそんなもの誰も聞いていなかったし、聞いていたとしても結局何も変わらないってこともわかっていたから、余計辛くなって勝手に苦しんで。
泣くことも億劫で、そのうち怒ることも止めて、“生きてる”だなんて大層な言葉を使えないような、ただ時間が過ぎるだけの毎日を過ごしていたんだ。
そのときの俺にとって、未来を考えることは何よりも恐ろしいことで、だからずっと目を瞑っていたし、耳を塞いでた。
昨日が消えて、景色が変わって、何もしないのに勝手に明日を迎えることが、本当に嫌で、本当に、怖かったんだ」
言葉とは、裏腹な声だった。
どこまでも穏やかな優しい声。
きっと今も浮かべているであろう表情と同じ。
何も、言えなかった。
冬眞の心について、何ひとつ踏み込もうとしていなかったわたしには。
今こいつが語った想いのすべてが、思いもよらないことだったから。