「誕生日パーティーかなんかの写真があっただろ? あれに日付、付いてたから」

「……そんなとこまで見てたんだ」

「気が利く男だからな、俺は」


いつかの、わたしとハルカの誕生日の写真。

1枚だけ、あのアルバムに挟んでいた。

大きいケーキに、ふたりの歳の分という大量のロウソクを挿して、それを囲みながら家族で笑っているところ。


きみがまだ隣に居た、しあわせな思い出。



「冬眞」

「ん?」

「なんでわたしが居るところがわかった?」


冬眞は振り返らない。

空と同じ真っ黒い髪の毛の向こうから、白く吐き出された息が見える。


「言ったろ、瑚春がどこに居たってわかるって。呼んでくれたら、花束持って迎えに行くよ」

「呼んでないし。それに持ってるの、花束じゃなくて鉢植えじゃん」

「細かいことは気にすんなよ」


坂道は緩やかで、少しのぼると丘の下の街並みが見下ろせるようになる。

たくさんの灯りの中、そこに落ちていく真っ白い粉雪は、幻想的で、とても美しく思えた。



「なあ、瑚春」



冬眞の声が、わたしを呼ぶ。

わたしは応えない。


だけど、目の前で揺れる癖のある黒髪を、粉雪の中で、見つめている。



「瑚春に、言わなきゃいけないことがある」