冬眞は黙ってわたしの手を引いていた。

人混みのなか、でも決して離れないように、足の遅いわたしのペースに合わせて、少し先を進む。


凍えそうなほどに寒いのに、冬眞の手は、温かい。

冷え切ったわたしの手に温もりを分けるように、それは大きく包み込む。



「あ……雪だ」


冬眞がそう呟いたのは、大通りを抜け、丘の上へ続く坂道に差し掛かったところだった。

つられて顔を上げると、確かに、真っ暗闇の空の中から、細かい雪が降っていた。


「そういえば瑚春、ちゃんとおにぎり食べた?」

「あんた、出て行ったんじゃなかったの」


冬眞の言葉を無視して、視線を空に向けたまま訊いた。

冬眞が止まって振り返る気配がしたから、首を戻し、目の前を見た。


「そんなわけないじゃん。ちょっと買い物行ってただけだよ。なんで?」

「なんでって……わたし昨日、出てけって言ったし」

「そりゃ言われたけど、だからって何のお礼も言わずに出て行かないよ。そもそも俺、瑚春に何言われようと出て行くつもりもなかったしね」


からからと笑って、再び前を向き歩き出す。

わたしはのそのそと、その背中を追いかける。


粉雪が、鼻の上にちょんと乗った。

冷たいという感覚すらよく分からないまま、水になって消えた。



「瑚春の誕生日プレゼントを買いに行ってたんだ」


訊いてもいないのに、冬眞が話し出す。


「明日だろ、誕生日。プレゼントはこのビオラ。

俺の好きな花なんだけどね。綺麗なの売ってる花屋さん探してたら、朝早く出たのに、こんな時間になっちゃった」

「なんで……知ってんの、わたしの誕生日。日にちまで店長に聞いてたわけ」

「いや、写真」


冬眞が短く答える。

ああ、と、わたしは、家にある1冊のアルバムを思い出した。