今のご時世、まともな人間で、携帯や身分を証明できるようなものをひとつも持っていない人なんているんだろうか。
いるわけ、ないような……でも、そしたら。
『ユーレイ、ってのは、どう?』
そんな馬鹿げたことを言っていたけれど。
……もしかしてあれって、冗談なんかじゃなくて。
「……」
いやいやいや、そんなことあるわけない。
ユーレイがシャワー浴びるわけないし、そもそもだったらこの服だって何なわけだし。
きっと誰かにカツアゲされて困ってだからわたしに助けを求めたってそんなパターンだろう。
……でもだったら交番に行った方が確実か。
それなのに警察に頼らなかったってことは……まさか……犯罪者、とか。
「……」
……もしかしてわたし、とんでもない拾い物をしてしまったんじゃないだろうか。
やっぱり警察に連絡した方がいいのかな。
だけどこんな男を拾って部屋に上げたなんて、わたしも変な疑いを掛けられそうだ。
面倒事は御免だけど……いやそもそも、すでに面倒事には巻き込まれている気がするんだけど。
一体、どうしたもんか。
「……ねえ、あのさあ」
「え?」
突然かけられた声に振り返れば、シャワールームのドアの隙間から、顔だけ覗かせている冬眞がいて。
「別に、俺の裸が見たいんならそこにいてもいいんだけど。いや、パンツ握ってるくらいだから、むしろ誘ってる?」
「すぐに出て行くから待ってて」
わたしはパンツを籠に戻して、すぐさまその場を離れた。